『ガンダム完全心理解析書』を読んで

『ガンダム完全心理解析書』を読んで

ガンダム完全心理解析書

ガンダム完全心理解析書

ローリングストーン, カザン

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なんだか、アルテイシアの「兄を殺す」というのは、ハマーンの「自分を捨てたシャアが憎くて許せない。でもそばにいて欲しい」に似ていると感じていました。

アルテイシアの、生き別れになった兄キャスバルの考え方(ジオニズムと、究極のエレズム)に反対していても、だからといって「兄を殺す」と考えるのは理解できません。「兄は兄」と放っておけば良いのに。

ハマーンのシャアへの執着は処女っぽいというか、自分を捨てた男などとっとと忘れてもっといい男を捕まえれば良いのに、と。

そんな「可愛さあまって憎さ百倍」といった、二人のキャスバル(シャア)への執着が似ていると感じていたのですが・・・

一般的に言って、人間は自らが求める異性の理想像を、異性の親をベースに造り上げて行く。

親との濃密な関係は、娘、息子の成長とともに薄らぐことになる。

消化できない父への思いを、セイラは優しい兄に夢の続きを託したのである。

大切な人を2度も失うという経験は「失いたくない」という欲求力を急激に高じさせ、そして異常なまでの兄への慕情と執着心で、兄を追いかけ続けたのである。

「小学校3年生にあたる年齢で父親を殺され、すぐに母親も心労から倒れ亡くなり、幼い妹を抱えた状態で自分の身も危ないとなったら精神的に病んで当然。マザーコンプレックスにもなるでしょう」

と、キャスバルの精神状態を妄想し「可愛い」と萌えていましたが、どうやら妹アルテイシアの方が病んでいたようです。

富野監督はガンダムエースのインタビューで『Z 劇場版』のハマーンがガザCで登場したシーンについて「大好きなお兄ちゃんに会えて嬉しい」とハマーンの心理状態を話ていました。

ハマーンにとってシャアは「大好きなお兄ちゃん」だけでなく、指導者として多忙な父、マハラジャの代わりだったのかもしれません。

二人とって大好きなお兄ちゃんで、父親でもあり、恋愛対象の異性であるキャスバルに「捨てられた」というのは、ただの「生き別れの兄」ではなく「捨てられた男」ではないのでしょう。

そうなると、ストーカーじみた執着でキャスバルを追いかけるのは合点がいきます。

まったく、キャスバルは罪つくりな男です。

各キャラクターの人物紹介、設定資料の域を脱しない『ガンダム人物列伝』に対して、この『ガンダム完全心理解析書』は、各キャラクターの深層心理を分析し、編集者独自の見解が書かれているので読み応えがありました。

特に「ジオン暗殺に関して関係のないガルマを死に至らしめた結果(謀略によって戦死)、デギンはキャスバルにより暗殺される以上の苦痛を与えられた」というのはなるほどと膝をうちました。